最新技術と蓄積したノウハウで見えない場所から九州を支える「明大工業」
はじめまして!APU(立命館アジア太平洋大学)3回生の山下仰です。
今回の取材で私を迎えてくれたのは、九州の建設業を幅広い分野から支える「明大工業」の皆さん。初めての取材とthe社長室みたいな部屋に緊張しつつも、何でも聞いてくださいと迎え入れられ、行ってきました!
明大工業とは
創業56年、明大工業株式会社では地質調査・設計解析等の建設コンサルタント業務や地すべり対策、法面保護等の防災対策を始め、修復保存工事やトンネル、橋梁等の補強工事、3次元計測などを活用した事業を展開している会社です。
目次
働くとは?何よりもやる気が大事! 社長インタビュー
建設業を全く知らない私を待っていたのは、とてもガタイのいい藤澤正浩社長。質問したいことが色々あったけれど、まずは別府で生活していて一番気になっていたことを聞いてみました。
Q. 地質や地層的に別府の中で安全なところや危険なところはありますか?
藤澤社長「基本的に温泉が出るところは断層だらけだから、別府は全部危険といえば危険です。見晴らしの良い山や丘になってる場所にホテルや旅館、住宅が建ってる場所も結構あるけど、そのような場所もだいたいが断層が分かれて今の状態になったんだよ」。
よくされる質問の一つだと笑いながら答えてくれました。別府に多くの源泉があるのにはちゃんと理由があるのだとわかりました。
藤澤社長「我々が地震を止めるのは無理ですよね。なので、揺れても耐えられる『耐震』、揺れても揺れを軽減する『免振』構造というものを施すんです。また、地震で橋が落ちないように補強するのも我々の仕事ですね」。
Q. 社長はどのように社長になられたのですか
藤澤社長「私は学生時代、土木を専攻し卒業後すぐ『明大工業』に入社しました。いち技術者として地質調査や地滑り対策工事など、24~25年間現場を担当していたんです。なので、先代・先々代の社長と血縁関係はありません。
若い頃、ダム工事のとっかかりから完成まで携わることがありました。作り上げたものが後々まで残る仕事にやりがいを感じていましたね。目に見えないものも多いけれど、知識をもとにできあがってカタチになったり、地盤調査や地滑り対策で被災地を復旧したり、地元の人に喜ばれるのも嬉しいです」。
現場でバリバリ仕事をされていたにもかかわらず、今は社長として働かれているからこそ、技術者と社長の両方の視点を持ってらっしゃるんですね。
Q. 学生や社員が「明大工業」で働くうえでどんな素養が必要ですか
藤澤社長「やる気のある人ならだれでも大丈夫です。意欲や興味さえあれば、知識ゼロでもかまいません」
山下「資格とか、地学に関する知識などがなくてもいいんですか?」
藤澤社長「我々の仕事は、ずっと勉強なんです。だから勉強は入社してからでもいいんですよ。基礎知識があった方がいいけれど、会社に入ってから学んでもらえれば、大丈夫です。
土木や建築と聞くと、作業着で穴を掘る作業を想像する人も多いと思いますが、現在では仕事も多様化しているんです。パワーショベルやトラックは全自動運転も多いですよ。災害の現場で働くロボットなんかを見たことがあるでしょう?あんな感じでIT化も進んでいるし、3D測定とか、パソコン技術が生かせる業務もたくさんあります」。
土木は肉体労働というイメージがありましたが、他の業界と同様にIT化の影響を受けて働き方が変わってきいているんですね。
別府の温泉、いくつある? 源泉調査見学
温泉はいつかは枯れてしまうかもしれない、今のうちに源泉の数を把握しなくては!ということで、大分県は源泉数を把握するための調査を開始しました。「明大工業」は別府市にある源泉のうち3,300件程度の調査を委託されています。実際に源泉調査の現場へ連れて行ってもらいました!
温泉調査について教えてくれたのは吉田修一さんと、APU卒業生の松本薫葉子さんです。
入浴場の上にある温泉タンクを見るためにはしごにのぼる様子。
タンクの蓋をあけ、温度や泉質などの調査を行います。
Q. どのように源泉の数を調査しているのですか?
吉田さん「全件1件ずつ回って温泉の温度や量、pH、電気伝導度を測ります。保健所が保管している温泉台帳というものを基に調査を進めているんですが、古いものだと大正時代に書かれた台帳もあるんですよ。1日に6~8ヶ所くらい、3班ほどに分かれて訪問しています」。
松本さん「その他にも使用目的や利用量などを聞いてみます。温泉は入浴するだけでなく、ビニールハウスや発電に使ったり、共同浴場として使ったりしている人もいます。使用量は浴槽のサイズや使用人数などから計算するんです。こうして回って話をして調査をしたら、会社に戻って情報を整理します」。
所有者が載っていなかったり、源泉が山奥にあったりと台帳が古いために色々な困難があるんですね。
災害を防ぐ砂防ダムとは? 砂防ダム見学
別府の自衛隊駐屯地のすぐ横、ガタガタな山道を登っていくと、想像をはるかに超えた大きな砂防ダムがあらわれました。砂防ダムとは、水ではなく土砂をせき止めるためのダムです。
ダムの脇にある作業小屋で現場での生活や働き方について笠村栄治さん、木村宜夫さんにお話を聞きました。
Q. 砂防ダムをつくるときはどんな生活をしていたのですか?
木村さん「大体は8:00に朝礼、8:30に作業スタート、10:00に安全巡視、昼過ぎに明日の打ち合わせをして、その他は書類作成や測量などの現場管理行うという流れです。お昼はお弁当持ってくる人が多いかな。すぐ近くに飲食店があまりないし、昼寝したいから」。
笠村さん「もっと長いスパンで言うと、週休2日だから休みはゆっくりとれるよ。この業界に30年いるけれど、昔は土日関係なく働いて雨が降ったら休み、なんてのが普通だったけど今は働き方が変わったよね。業界全体が変わりつつあるよ」。
Q. 他社と「明大工業」の違いは何ですか?また、やりがいを教えてください
笠村さん「作業自体は会社が違っても変わらず、同じです。でも働き方もそうだけど、古いものにとらわれず新しいことを取り入れるっていう点では『明大工業』は他の会社と違うかな。なんでも話せる、家族的っていう印象はありますね」。
木村さん「会社のサポートがきちんとしてる。工事ごとにいろんな会社の人たちと関われるのも仕事のおもしろさのひとつだね。あと、作ったものがずっと残るという達成感があります」。
「明大工業」は新しいことを否定せずに取り入れていくことによって成長していると分かりました。また、それのおかげで意見が言いやすい職場になっているんですね。
Q. 大学や高校など専門の学校に行かないと建設業界には入れないイメージなんですが?
木村さん「僕はまったくの文系ですよ!なのに今こんなことしてる。理系の大学出て仕事ができるかっていっても、そうとは限らない。だからやる気があればって言うか、入ってから勉強すれば大丈夫」。
山下「社長さんにもまったく同じことを言われました!」
笠村さん「だから本人のやる気次第っていうかね。技術者だから、法律もあるし勉強は必ず必要なんです。結局何の仕事でも同じ、働きだしてからの勉強が大事ですよ」。
専門的な分野だと思っていたけれど、文系でもいいんですね。どの業界でも、仕事についてからの“学び続ける姿勢”が重要だと思いました。
Q. 最新機器を使った現場を少しだけ見せてください!→ドローン登場
現代機器を使った現場とは、どんな感じなんだろう?という疑問に、ドローンが登場!
ドローンに付いているカメラで撮影した映像が、手元のタブレットに映し出される仕組みです。普通では見えない空からの映像を確認すれば、工事の進捗状況を把握できるんですね。
自分が知っているドローンは長時間充電して30分程度しか動かないようなおもちゃレベルのモノだったので、映像の鮮明と力強さに驚きました。また、実際に現場で使われているところにも、新しいものを取り入れるという特色が見えました。
技術が変える建設業の働き方
業界としてはかなり早い2006年、ドローンよりも先に3D計測を導入していた「明大工業」。私たちにはあまり馴染みのない3D計測について、田原隼人さんにお聞きしました。
Q. 3D計測の技術はどうやって身につけたのですか?
田原さん「もう10年以上前に、会長(当時社長)が急に導入しました。そして、私が突然担当になったんです」。
山下「突然ですか!どうやって使い方を覚えたんですか?」
田原「社長はもちろん、社内で誰も使い方を知らなくて。全国的にも導入事例が少なく、日本各地を回って勉強しました。県外の会社に行って何回か学んだりもしましたよ。
私自身がそんな苦労をしたので、日本各地の3次元計測および3次元データ処理に携わる技術者有志のネットワーク『3DNetworkJapan』を仲間たちと作りました。技術者が計測方法や解析方法などで困っていることなどの情報交換や技術交流ができるようにするための組織で、年に数回集まり勉強会や情報収集をしています」。
社長の無茶振りから技術を身につけ、教える立場にまでなった田原さん、スゴイです!
山下「3D計測は、実際にどんなふうに役立つんでしょうか?」
田原「現状を3Dデータ化することで、昔の状態をシミユレーションして復元したり、地震などの自然災害後に完全に元に戻すためのデータとして利用したりしています」。
10年以上前、社長の思い付きのような3D計測器の導入が、今では「明大工業」の専門分野のひとつになっている点に社長の偉大さを感じました。またそれを可能にしたのは、全国を周って使い方を覚え、今では技術を広める側として働いている田原さんの支えのおかげなんだと感じました。
大学・高校卒業後にUターンした若手社員インタビュー
最後に、新入社員である麻生佳希さんと、加藤樹さんにインタビューしました。おふたりとも大分県の出身で、一度県外に出てこちらに戻り「明大工業」に就職しています。
Q. なぜ「明大工業」に就職したのですか?
麻生さん「私は大学で地質などの地学を学び、東京で就職しました。しかしビルや人が多い環境に慣れず、地元が恋しくなったんです。そこで大分県に戻り『明大工業』に就職しました。就職しても、面接の時に感じたイメージや雰囲気はそのままで、ギャップなどはありませんでしたよ」。
加藤さん「高校は機械科で学び、その後広島に行きました。やはり住み慣れたところがいいと思い大分に戻り、コンピューターや3D技術が使える『明大工業』に就職しました。入社前は建設業界なので荒々しいイメージを持っていたんです。けれど実際はザ・体育会系ではなく、頭を動かして仕事している会社でした」。
Q. 仕事をしていて辛いこと・楽しいことは何ですか?
麻生さん「調査は数をこなすのが大変です。でも段取りよくこなすと達成感がありますね」。
加藤さん「決まった基準がないまま技術を身につけなければいけないので、覚えることが多くて苦労しています。レーザースキャンでデータ同士を合成し、カタチになっていく過程はとても楽しいです」。
Q. 会社で気になることは何かありますか?
麻生さん「会社にある大きな招き猫が気になります……」
金光常務「実はあれ、昔工事をした会社の社長が自作してプレゼントしてくれたんです。通常、招き猫は右手を挙げてお金を呼び込むといわれていますが、会社にあるのは左手を挙げており、“人を呼び込む”意味が込められているそうです」。
麻生さん「知らなかったです!」
山下「職業病というか、この仕事をしているからこその“あるある話”ってありますか?」
加藤さん「ふとした拍子に、自分の見ている映像を脳内でシミュレートして3Dにしたりしていますね。昔数学でやった展開図とか、大好きです!」
おふたりとも一度県外に出たにもかかわらず、住み慣れた大分に戻ってきて仕事をされており、働く場所の大事さを感じました。取材に来る前は私も建設業界は荒々しい体育会系のイメージが強かったですが、最初から最後まで皆さん温かく対応してくれました。
まとめ
今回の取材を通して、「明大工業」さんの新しいことを受け入れる姿勢が、事業や社員同士の仲の良さにつながっているのだと感じました。また、新しい展開を可能にしているのはゼロからのスタートでも県外を出て学びに行くような、やる気のある社員さんたちの支えのおかげなんだと思います。そういった人材が多いのはもしかしたら左手の招き猫のおかげなのかもしれません。
就職で業界を悩んでいる学生さんや大分県外で就職を考えている人も、文系や理系の枠組みにとらわれずに、色々な会社を見てみると新しい出会いがあるかもしれません。
会社データ
取材先:明大工業株式会社
〒874-0922 大分県別府市船小路町3番43号
TEL 0977-24-1212(代表)
FAX 0977-22-5945(代表)
http://www.meidai-k.co.jp/
採用情報 http://www.meidai-k.co.jp/recruit/
取材・編集・テキスト
山下仰(立命館アジア太平洋大学3回生)
※「別府でJOB JOB」に込めた意味
「JOB」は、仕事、職、任務、役目などという意味があります。そして、別府といえば真っ先にイメージするのが温泉。温泉につかると「ジャブジャブ」と音がしますが、別府のワークスタイルを温泉のように学生(若者)に浴びてもらいたい、という意味を込めています。